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苔園芸 − 苔植物とは |
苔植物は日本で1700種、世界中だと20000種もの大植物群ですから、その形や大きさ、性質もさまざまです。このため苔を育てるのに「こうすれば必ず良く育つ」という方法は残念ながらありませんが、苔園芸でよく使われている苔については管理のしかたも少し分かってきました。
自生している自然の苔のイメージはどんなものでしょうか。樹海のような鬱蒼とした森の中に密生する苔や、屋久島のような湿度のある森で良く育つ植物でしょうか。確かに日陰で湿度のある場所で良く育つ湿性の苔もたくさんあります。しかしギンゴケやハマキゴケのようにアスファルトやブロック塀のようなところに生える苔や、岩の上や樹皮、開けた地面のように乾燥した場所に生える乾性の苔もあります。盆景や苔玉、テラリウムや苔庭で育てる苔は後者のものが適しています。また太陽を好む好日性のものと、木漏れ日が射すような半日陰を好む種類のもの、ほとんど陽の当たらないような場所を好む苔があります。一般には乾燥にも強く半日陰で良く育つ苔が苔園芸では育てやすい種類になります。 |
園芸での美しい苔とは
苔植物を大きく分けると苔類(たいるい)と蘚類(せんるい)があります。タイ類は地面に張り付くようなゼニゴケなどで、スギゴケやヒノキゴケ、ハイゴケなど直立したりほふくし、枝と葉が区別できるような苔が蘚類です。テラリウムでジャングルのイメージでタイ類を使う方もいますが、苔園芸では主に蘚類を使います。
日本では昔よりいろいろな苔が使われてきましたが、それでも30種類ぐらいでしょうか。つい10年ほど前までは苔といえばスギゴケぐらいでしたが、近頃の苔人気でスギゴケ以外にも名前が知られるようになりました。園芸雑誌などで紹介される種類は10種類ぐらいが多いようです。これらに共通しているのは蘚類であること。生育したときの密度があり、絨毯のようなマット状に生育します。 |

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土がなくても苔は育つ
苔を観察してみるとコンクリートやブロック塀、岩上、樹皮、川の砂地、茅葺き屋根や瓦屋根などいろいろな物に密着するように張り付いています。もちろんスギゴケやヒノキゴケのように腐葉土質の地面に生える苔もありますが、苔はかならずしも土を必要としない植物です。これは普通の植物(種子植物など)のように根から栄養や水分をとらないため、前記のようないろいろなところでも生育できるのです。そしてこのように乾燥したところで育つ乾性の苔が育てやすい苔といえます。土で育つと思われているスギゴケでも、生育が悪いときは軽石砂に替えてやると良く育ちます。
目土について
*植え付けでの目土は乾燥を防いだり発芽を促進する効果があります。
*右画像は作業後放置した軍手から発芽したスギゴケ |

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コケの水やり
苔は群生することでその群生体(コロニー)のなかに保水力ができます。群生体の生育密度が高いほど保水力が増します。またスナゴケやスギゴケなど好日性の苔は日焼けや蒸れを防ぐために、乾燥するとすぐにしぼむ能力があります。群生体に水を蓄えるタイプの種類には乾燥したら与えるようにします。好日性のスナゴケやスギゴケは日中は葉をとじている種類の苔です。このような苔には早朝か夕方にたっぷりと水やりをします。いずれの苔も日中の水やりは避けるようにします。
苔は根から水分を吸収せず、葉の表面から直接水分を吸収します。このためいくら毎日、土や根元に水やりしても、空中の湿度が乾燥していると水分不足ということになります。自生する苔は林のような安定した湿度のなかで良く育ちますが、エアコンや暖房の効いた室内環境は林のそれと比べればかなり厳しい環境といえます。毎日水やりをしても、室内の湿度が乾燥していれば苔の生育には良くありません。特に小さな鉢植えや作品ほど空中の乾燥の影響を受けます。
室内で苔を育てるには少し深めの器に飾るようにしたり、作品を大きめにしてコロニーの保水力を増すようにします。また室内に長く置かず、何日かおきに入れ替えるようにします。 |

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施 肥
肥料の質問がよくあります。苔は大きく育つ植物ではありませんからほとんど栄養は必要としません。庭のスギゴケに油かすをわずかな量まいたら、降雨で流れて広がり、赤く焼けてしまうこともあります。苔植物への肥料は必要ありません。
肥料とは別にミネラル分は苔の生育によいと言われています。 ミネラル*を含む炭を用土に混ぜることで葉色が良くなったという話を聞きます。根からの栄養を必要としない苔にとって、即効的な肥料は時に害を及ぼすことがありますが、微量のミネラルが徐々に溶出する炭は、成長の遅い苔植物にとって相性が良く、とても緩行的肥料のようなものかもしれません。
*炭に含有するミネラル類(リン、カルシウム、マグネシウム、窒素、その他 Fe,K,Zn など) |
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乾燥しても枯れないか
普通の植物はカラカラに乾燥していればこれが再生すると言うことはありません。しかし苔植物は不思議なことに乾燥した状態で1〜2ヶ月放置しておいても、水やりすると再生したかのように生育を始めます。
(夏は乾燥させても湿度が高いためカビが出たり、蒸れを起こす危険があります。)
苔は荒れた表土に最初に育つ植物です。露出した表土に陽が当たれば小さな苔の体からは急速に水分が失われます。小さな苔植物にとって表土の乾燥は致命的でとても厳しい生育環境です。そしてこの苔に雨があたります。水を吸った苔は小さな葉をいっぱいに広げ、元の青々とした苔に復活します。この乾燥と湿潤の繰り返しに順応できるのが苔植物で、園芸の常識からすると驚くべきことです。 |
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冬の苔・越冬
一日の最低気温が10度より下がると苔の活動がにぶくなります。地域差もありますが庭への植え付け時期は最低気温がが10度になる1〜2ヶ月前までに終えるようにします。植え付けてから少しでも生育することで定着や若干の発芽も期待できます。冬直前の植え付けは寒風や乾燥に傷むだけです。
耐寒は苔の種類によって違いますが、多くの苔にとって乾燥した寒風にさらされるのがもっとも良くありません。乾燥した寒風にさらされるところでは寒冷紗などの覆い掛けが効果的です。
*スギゴケの上に降りた霜
*雪で覆われたモスプランの農園 寒風にさらされるよりも雪で覆われた方が苔も傷みません |

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